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化学物質過敏症の症例研究 「化学物質過敏症」は一度かかると直りにくく、一生つきあっていかなければならないこともあります。ではもしも「かかったかもしれない」ということになったらどのように対応すれば良いのでしょうか? 前述の、渡辺先生の担当された二組の患者さんの発症例と、その後の対応策をご紹介します。 |
■楽しいはずの新居が苦痛に 恵庭市・Oさんの場合
Oさんと長女のMちゃんが、せきや吐き気、頭痛、だるさなどの深刻な症状に悩まされるようになったのは、新築したての新居に引っ越してから数カ月が経った昨年の春のこと。楽しみにしていた新居で迎える最初の春が、つらい症状に悩まされる長い苦悩の日々の始まりでした。
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新居を建てる業者を選ぶためにモデルハウス巡りをしていたときはなんともなかったというOさん。最終的にとあるハウスメーカーに依頼を決定したときも、なんの不安も感じていなかったといいます。ところが入居後外出先から帰ってくると何とも言えないイヤな感じを受けるようになりました。特に陽射しが暖かくなってくると室内に妙な臭いが感じられるようになり同時にだるさを覚えるようになりました。Oさんが改めて近所のモデルハウスに行ってみたところ、目はチカチカするしひどいところでは呼吸することもできないほど具合が悪くなりました。
やがて子供達も吐き気や頭痛を訴えるようになりました。特にMちゃんは夜ひどくせき込むようになり、時には激しいせきのせいでもどしてしまうという状況に。近くの病院につれて行って検査をすると、アレルギー数値は非常に高いのですが通常の原因物質には反応を示しませんでした。結局原因は不明のまま、薬で症状を落ち着かせるしかありませんでした。 Oさんの症状は日を追う毎にひどくなり、やがて自宅だけでなく外出先の書店でも気持ちが悪くなるなど、非常に深刻な事態になってきました。そんなとき渡辺先生の存在を知り、母子そろって診断を受けにいったところ、やはり心配していたとおり「シックハウス症候群」であることが判明。正しくは「化学物質過敏症」という症状であること、まだまだ不明な点の多い病気で、原因物質の特定や根本的な治療が難しいことなど、詳しく説明してもらったのです。 |
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渡辺先生から発症の経緯をできるだけ詳しく思い出しすように、と助言を受けたOさんは克明に症状を綴った記録を作成し、発行された診断書と一緒に建築を依頼したハウスメーカーに見てもらいました。「事実をちゃんと知ってもらって、一緒に対応策を考えてほしいと思いました。せっかくの新居なのにという思いもありましたが、それ以上に私たち家族だけでなくこういう病気で苦しんでいる人がいるんだという現実をきちんと認識してほしいと考えました」とOさん。
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メーカー側も「こんなことは初めて」と最初はとまどいを隠せない様子でしたが、事態を認識すると北海道立衛生研究所に調査を依頼。Oさん宅の室内空気中のホルムアルデヒド濃度とカビの量の検査をしてくれました。
結果としては、新築後約1年を経過した時点の検査でホルムアルデヒドの残存濃度は基準とされている0.08ppm以下をクリアしていました(左表参照)。しかしそれでもOさんが深刻な症状に悩まされているという現実をメーカー側も重く見て、ホルムアルデヒド除去機能を持つ空気清浄機を設置したり、床下に活性炭を散布したりと、様々な対応策を検討してくれています。しかし、その効果はまだ現れておらず、決定的な対応策はいまだに模索中です。 |
Oさんは「この病気になってから改めていろいろ勉強しました。ハウスメーカーだけでなく、カーテンやクロスのメーカーにも問い合わせましたが納得のいく対応をしてくれるところは少ないです。」と言います。食事や運動など日々の生活の中で、できる限り健康を心がけながら「はやくこの問題を解決できるようにもっと社会全体が取り組んでほしい」と望むOさん。これはすべての患者さん共通の、切実な思いであることでしょう。
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※北海道立衛生研究所検査結果より |
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